タクシー歌人さんの一首
こんな冷たい雨の日は、タクシー歌人さんの歌が染みます。
能登半島を襲った地震、羽田空港で起きた航空機の衝突事故と正月早々、世間を震撼させる出来事が相次いだ。
〈今、何の励ましにならぬ言葉でも「命さへあれば」何とかなるはず〉
タクシー運転手の高山邦男さん(64)は夜の東京の街を走り、乗客を目的地に送り届けると、頭に浮かんだ思いを短歌につづる。歌には、悲しみに沈む人たちに寄り添う気持ちがにじむ。
〈勝ち組と負け組があるらしき世に脱走兵のごときわが生〉
〈わが仕事この酔ひし人を安全に送り届けて忘れられること〉
〈ポンコツになつてしまつた母だけど笑顔がぼくのこころを救ふ〉
この頃、夫に先立たれた母親の孝子さんの認知症が悪化していた。同居してひとり励んだ介護のことも短歌の題材にした。
〈人生の夕日とはこんな感じかなわれはまだ母に教はり生きる〉
読売新聞:余白のチカラ7:大井雅之
私の母も、認知症を患いながら、同じく87歳で自宅で亡くなりました。介護の最中は、タクシー歌人さんのように母のことを慮れなかった。
後悔先に立たずが身に染みます。