薫風に燕が勢いよく舞いながら、巣作りに勤しんでいます。その健気な姿を見る度思い出す物語があります。オスカー・ワイルドの「幸福の王子」です。
丘の上に立つ黄金の王子の像と、像の足元に一夜の宿を求めた燕。王子の慈悲の心と、王子に代わり善行をし続けて、やがては寒さで死んでしまう燕の優しい心が織りなす物語です。
「下のほうに広場がある」と幸福の王子は言いました。 「そこに小さなマッチ売りの少女がいる。 マッチを溝に落としてしまい、全部駄目になってしまった。 お金を持って帰れなかったら、お父さんが女の子をぶつだろう。 だから女の子は泣いている。 あの子は靴も靴下もはいていないし、何も頭にかぶっていない。 私の残っている目を取り出して、あの子にやってほしい。 そうすればお父さんからぶたれないだろう」
「もう一晩、あなたのところに泊まりましょう」ツバメは言いました。 「でも、あなたの目を取り出すなんてできません。 そんなことをしたら、あなたは何も見えなくなってしまいます」
「ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と王子は言いました。 「私が命じたとおりにしておくれ」
そこでツバメは王子のもう片方の目を取り出して、下へ飛んでいきました。 ツバメはマッチ売りの少女のところまでさっと降りて、 宝石を手の中に滑り込ませました。 「とってもきれいなガラス玉!」その少女は言いました。 そして笑いながら走って家に帰りました。
それからツバメは王子のところに戻りました。 「あなたはもう何も見えなくなりました」とツバメは言いました。 「だから、ずっとあなたと一緒にいることにします」
書籍名:幸福の王子 結城浩 訳
子どもたちに何度も読み聞かせをしましたが、その度こみ上げるもので朗読が止まってしまったという、思い出の物語でもあります。
本当の幸福とは何か。いまだに私の一大テーマです。