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活動報告

竹林一さんの面白過ぎる対談

竹林 話を戻すと、妄想を社会実装に移すにはその妄想を何らかの形で表現しないと、ほかの人には伝わらないんです。妄想は10年先、20年先のことを想い描いているので、そこで「中期計画でどれくらい儲かるの」と聞かれた瞬間、もうそこで合っていないんですよ。その両者をつなぐ言語に100%の力を注ぐ、その原点こそが妄想を言語化する力だと思います。

八巻 妄想を言語化するとき、難しいことが1つあると思います。それは自分ゴト化することです。お客さまや社内の人、いろいろな立場の方がいるなかで、妄想の世界観を自社や業界のなかだけでなく、あまねく伝えようとするとやはり抽象度が高くなってしまいます。しかし、そこに自分の意志入れをして、自分ゴトとして語らなければイノベーションを達成するための「熱量」が足りなくなります。ここを乗り越えるにはどのようなことが必要でしょうか?

竹林 そうですね。僕もソフトウエア会社の社長をやったり、業績不振の会社を立て直したり、いろいろやってきましたが、やっぱり必要なのは人なんです。いくらAI時代と言っても、AIが会社をつくったりビジネスやったりするわけではない、結局は人です。妄想を実装するのも人の力なんですよ。

「起承転結」人材育成とレーザー型発信でイノベーションを呼び込もう

八巻 書籍にもありましたが、改めて妄想を社会実装する人材についてお聞かせください。

竹林 それがまさに本にも書いた「起承転結」人材論です。「起」はまさに妄想設計できる人。「承」は妄想を具体化してキーワードに落とし込み、ストーリーを描ける人。グランドデザインを担う人ですね。

画像: 資料提供:オムロン株式会社 イノベーション推進本部 シニアアドバイザー 竹林 一氏
資料提供:オムロン株式会社 イノベーション推進本部 シニアアドバイザー 竹林 一氏

そうやって設計していくと、具体的な個別アイデアも浮かんできます。妄想をベースに「こんな世界ができるんちゃうか」と抽象化と具体化を両方行ったり来たりしていると、だんだん軸も定まってくる。そうなってくると、じゃあどこから手を付けようかという「転」が必要になるわけです。いわば機能設計みたいな役割ですね。

この辺りまで来ると、どんな順番が良いのかとか、KPIをどう設定するか、どんなビジネスモデルを作るのか、そういうことが見えてきます。「転」はこれらをしっかりやってくれる人なので、その後「結」の人がきっちりと動かしていく。この起承転結の4種類の人材が揃っていることがポイントです。どの役割が偉いとか偉くないとかではなく、彼らが新結合して最終的にイノベーションにつながるイメージです。

八巻 ご著作のなかで、「今一番足りていないのが『承』の人材だ」と指摘されていました。私も金森も「承」タイプを目指したいね、と話していたのですが、自分の意識を変えていくことで「承」の資質は身に付くものなのでしょうか。具体的な育成ノウハウなどはありますか?

竹林 いろいろなパターンを見てきましたが、「承」は育成できると思います。「転」で実績を積み、機能設計の経験を重ねていくと、全体像が把握できるようになっていきます。「転」の経験を重ね、ファクトを集めて分析する上で、今までの発想の延長線ではなく軸をずらす訓練をする。そうしたら「承」の能力は育つと思います。

軸を変えるというのは既存の枠組みを変える、つまりリフレームすること。有名なのは旭山動物園です。あそこは動物を見せるのではなく、動物の行動を展示するというリフレーミングでイノベーションを興しました。結婚情報誌『ゼクシィ』も、3時間の結婚式のための情報誌から、結婚をスタートとし「60年の始まりの結婚式へ」というコンセプトで編集方針をリフレーミングし、付録や広告内容が広がっていったそうです。

だからイノベーションといっても、既存の仕組みやモノを否定するものではなく、逆に「うちの十八番は何や」と考え、その軸を変えていくことなんです。

さらに、抽象化する能力を上げつつも、現場が夢物語で無いと思える、付いていけると思えるくらいの具体化におとす能力も備えていく必要がありますね。

金森 「軸をずらそう」と考えると難しいですが、むしろ物事の本質を突き詰めるという感じですね。

竹林 そうですね。時代とともに本質はちょっとずつ変わっていくので、次の軸やフレームを作っていく。それが僕は一番のイノベーションやと思っていて、それだったらできるじゃないですか。その軸をわかりやすい言葉で発信されると、みんながそのことを考え始める。これからはアンテナを張って待っているんじゃなくて、レーザー型で「うちはこんなことやってまっせ」「こんなこと考えてまっせ」と発信し続ける、そうするとまったく別の方向に新結合の可能性が開く、そんな力が必要になると思います。

八巻 情報を広く集める受信型の「アンテナ」から、自ら情報を発信する「レーザー」への軸の転換も大切ということですね!妄想でとどまっているアイデアを、社会実装していくための具体的なヒントを今日はたくさんいただきました。ありがとうございました。

対談を終えて

実は、竹林さんと初めて出会ったのはまだ私が若かりし十数年前のことでした。若手社員を中心とした勉強会にお招きし、新規事業立ち上げのポイントについてお話を伺ったり、実践編?として異業種交流会の場にお誘い頂いたりしたことも。今回は久しぶりにお目にかかり、当時と変わらないユーモアあふれる関西人トークと、年月とともに深みを増すイノベーション論に聞き入っているうちに、あっという間に時が過ぎてしまいました。

残念ながら字数の都合でここには書ききれませんが、自分のパーソナル・アイデンティティを表すアルファベット3文字のお披露目会(竹林さんは「YDK=やる気大好き」!)など、とにかく笑いが溢れる対談でした。既存の取り組みを積み重ね、全体像を見ながらその軸を変えてみることからでもイノベーションは実践できる。身近な一歩を踏み出せそうです。
(未来サービス研究所 八巻睦子)