メニュー
Information

活動報告

質の悪い「国家の病巣」
年間出生数の推移と予測
年間出生数の推移と予測© 現代ビジネス

日本社会の深層にある「老化」

もう1つ、コロナ禍があぶり出した人口減少の難題がある。

「国民はみずからの程度に応じた政治しかもちえない」(松下幸之助)とも言うように、政府の失態は日本社会の姿を映し出しているわけだが、もう1つの難題とは、なぜ日本がここまで落ちぶれてしまったのか、その理由にある。日本社会の深層にある「老化」だ。

「社会の老化」と呼ぼう。それは、少子高齢化の行きつく先である。質の悪い「国家の病巣」とも言うべきものだ。すべての年代の人々の思考を守勢に追い込み、“無難な道”を選ばせていく。挑戦する気力を吸い取ってしまう“邪気”だ。

出生数の減少が直接的に日本社会を破滅へ導くとすれば、「社会の老化」は真綿で首を締めるように、内側から崩壊させる。国民の目に見えづらいぶん、「社会の老化」のほうが厄介で、影響の及ぶ範囲が広い。

「社会の老化」が起きるのは、国民が歳を取ったからである。と言っても、単に高齢者が増えたということではなく、あらゆる場面において平均年齢が高くなっているということだ。かつてならもっと若い世代が担っていたポジションや役割に、ベテランが就いている例は少なくないだろう。どうしても“慣れ”が生じ、発想が硬直化してしまうのである。

「社会の老化」は平時にはあまり意識されることはないが、コロナ禍のような社会全体に非常に大きなストレスがかかる局面で表面化しやすい。

「社会の老化」はまず「高齢者の消失」として現れた。消失といっても死亡者数が増えたという話ではない(むしろ、インフルエンザによる死亡数が7割減るなどして、2020年の国内死亡数は11年ぶりに減少した)。

感染を極度に恐れて自宅に閉じ籠もりがちとなった高齢者が少なくなかったのだ。自主的に通所介護サービスの利用を控える人も相次ぎ、1週間に1回程度の買い物以外は自宅で過ごしているといった極端なケースまで見られた。

一度染みついた高齢者の恐怖心は、簡単には払拭されない。新型コロナウイルス感染症が収束したとしてもウイルスそのものが消えてなくなるわけではなく、高齢者の消費マインドがどこまで戻るかは分からない。現在の高齢者数は3600万人余であり、仮に消費額が平均で1割減ったならば、マーケットが360万人分縮むようなものだ。【河合 雅司(作家・ジャーナリスト) の意見