玉木雄一郎氏の不倫報道について、作家・北原みのりさんの連載から抜粋。
「玉木さんは描いていたであろう未来を一瞬にして失ったが、職を失ったわけではない。でももし玉木さんが女性だったらきっと、国会議員でいることは難しかっただろう。不倫した女は、職も未来も名誉も尊厳も一気に奪われる。不倫が暴露されたとき、女性にだけ特に厳しい報道や処罰はいつものことだが、つくづく理不尽である。」
この件は、女性として、否、人として全くの同感である。こんなことが許されていいはずがない。「男女共同参画」を唱えはじめてからいったい何年、いや何十年経つのか。立法府がこれだもの、餅はいつまでたっても絵に描いたままで、食べられやしない。
国民民主党代表の玉木雄一郎さんの不倫話で、何時間も友だちと話し込んでしまう。
申し訳ないが今は、性欲に負けた男……と、そんな言葉しか思いうかばず、しかしいったい、人生をかけるべき大切な時にでも、そんなことをしてしまうのが人間というものなのか……と、同情のような、憐憫のような、軽蔑のような、しかしこれ以上の物語はなかなか見られないぞという野次馬根性のような、様々な感情で心が乱れている。
今回、観光大使の仕事をしていた相手の女性は、すぐさま解任を含めて検討中と報じられた。気の毒。
玉木さんは描いていたであろう未来を一瞬にして失ったが、職を失ったわけではない。でももし玉木さんが女性だったらきっと、国会議員でいることは難しかっただろう。不倫した女は、職も未来も名誉も尊厳も一気に奪われる。不倫が暴露されたとき、女性にだけ特に厳しい報道や処罰はいつものことだが、つくづく理不尽である。
政治家の不倫問題。
私の世代だと、一番先に思い出すのは、1989年の宇野宗佑総理かもしれない。
宇野さんは当時、棚ぼた的な人事でいきなり総理大臣になったのだが、就任3日後に発売された週刊誌で宇野さんの愛人だったという女性が、宇野さんとの過去の関係を暴露したのだ。それが原因で、その年の参議院選挙で自民党が大敗し、宇野さんは退陣した。
私は当時大学生だったが、宇野さんを見ると気持ち悪くてしかたなくなったのを覚えている。今よりも恐らく男性の不倫には寛容な時代だったかもしれないが、それでも相手の女性側が告発するくらいに「宇野さんは酷い男だった」というメッセージも、宇野さんのイメージを最悪にした。告発当時、宇野さんは66歳、相手の女性は40歳だった。
今回の玉木さんの件と比べると、なんだか隔世の感がある。
今回の玉木さんは、「恋愛しているウキウキ感」が前面に出ていた。39歳の女性はまるでティーンのような格好でデートをしていた。そこには政治家としての重みも危機感もなく、フツーのサラリーマンのフツーの浮気な感じも含めていろいろと、考えさせられる。
政治家という職業に就く人たちも、平成・令和の過程で大きく様変わりした。そして私たちも、政治家の倫理観のなさというものにどこか諦めのように慣れきってしまっている。
きっとこの玉木さんの件も、きっと来年の今頃には風化して、誰も覚えていないような話になってしまっているのかもしれないくらいに。それにしても……玉木さん、ほんとに、なぜ!?
作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」より