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活動報告

米不足の深層 水田は安全保障の要
旭ではほとんど刈り終わったようだ。暑い中、大変お疲れ様でした。

東京大学大学院特任教授 鈴木宣弘

過剰だ過剰だと言われ続けてきた米が、突如不足に陥っている。昨年の猛暑やインバウンド(訪日外国人)需要などの要因が指摘されているが、少しの需給変動で不足が顕在化してしまう根本原因は別にある。
 過剰を理由に
①生産者には生産調整強化を要請し
②水田を畑にしたら一回限りの「手切れ金」を支給するとして田んぼつぶしを始め
③コスト高でも小売・流通業界は安値でしか買わず
④政府は農家の赤字補填はせず、稲作農家の平均所得が1万円に落ち込むほどに農家が苦しみ、米生産が減ってきている               ことが根底にある。
 さらに                               ⑤米の政府備蓄を増やすことをしなかった。しかも、100万トン程度の政府備蓄はあるが、その放出を否定している。需給調整は市場に委ねるべきもので、よほどの事態でないと放出は行わない方針なので、「この程度」ではできないと言う。
 確かに、場当たり的な放出は市場を混乱させる。在庫がこの水準を下回ったら放出すると言うのを明確な数値で制度化しておけば、みな、それを織り込んで計画的に行動できる。政策が動くのを予見できるようなシステマチックな仕組みが必要だ。
 中国は14億人が1年半食べられるだけの穀物備蓄を進めている。一方、日本の備蓄は、⒈5カ月分程度だ。これで不測の事態に国民の命を守れるか。米は700万トンくらいの生産規模まで減反しているが、日本の水田をフル活用すれば1300万トンできる。
 倉庫で備蓄するだけでなく、高騰した海外産飼料に代わる飼料米、小麦の代替の米粉パンなど、子ども食堂やフードバンクを通じた国内援助米、海外への援助米などで米の需要、出口は拡充できる。
とにかく、供給サイドで調整しようと農家を振り回して疲弊させるのをやめ、出口・需要を創るために財政出動する、つまり、生産調整から販売調整に切り替える必要がある。それによって、水田を水田としてフル活用しておけば、不測の事態の安全保障になる。
 そんな金がどこにあると財政当局は一蹴するだろうが、まず命を守る食糧をしっかりと国内で確保するために、仮に1兆円かかっても、それこそが「国防」ではないか。備蓄費用は安全保障のコストだと認識すべきだ。

日本農業新聞 今よみ:2024.9.10