司馬遼太郎の時代
数多くの歴史小説を残し、今日8月7日に生誕100年を迎える司馬遼太郎。
明治の文明開化を遂げた日本が、日露戦争で大国ロシアを破る姿を描く司馬の『坂の上の雲』は、単なる歴史小説ではない。日本人の精神の記念碑だ。
〈まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている〉
書き出しには、明るい空気が流れる。明治の初め、温暖な気候の四国・松山で少年たちが何者かになろうとして学問を志す。やがて彼らは、俳句革新を成した正岡子規となり、日露戦争で騎兵を率いた秋山好古、日本海海戦を勝利に導いた真之の兄弟へと成長する。
同作が新聞連載を始めたのは、高度経済成長期の1968年。多くの人が何かを果たそうと夢を見ていた。第一部のあとがきで、作家は秋山兄弟について、〈かれらがいなければいないで、この時代の他の平均的時代人がその席をうずめていたにちがいない〉と書いている。
誰でも自分の意思で人生を切り開けるようになった明治の時代。
読売新聞
誰でも自分の意志で人生を切り開けるようになった明治の時代に、何者かになろうとして学問を志した若者たち。文明開化を通して描かれた日本人の精神の記念碑は、多くの人が何かを果たそうと夢を見ていた時代に連載された。
文明開化は体験していないが、多くの人が何かを果たそうと夢を見ていた時代、つまり、高度経済成長期のことは記憶にある。生徒だったが、確かに周りの多くの人が夢に向かって目を輝かしていたのが肌で感じられた。世の中に、将来不安や悲観をにおわす空気もなかったような気がする。
今、日本の若者はどんな時代を生きているのだろう。