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活動報告

99歳現役テレビプロデューサー

石井ふく子プロデュースの「花嫁」を、三越劇場で観劇してきました。

向田邦子さんが好きで、作品を読み漁ったことも懐かしく、ああ、昭和は倫理の時代だったなぁと感慨ひとしお。

「私の財産はみなさんとお仕事すること。身内もなく、天涯孤独だから他の財産はいらない」。

役者の演技にも、石井ふく子さんのこの言葉にも、涙が出るほど感激しました。

直木賞作家の向田邦子作のテレビドラマを舞台化した「花嫁 ~娘からの花束~」が、6月1日から東京都中央区の三越劇場で始まる。

 稽古場をのぞくと、昭和の風情が残る下町の風景が広がっていた。この日は、主人公・ちよ役の久本雅美が、雨漏りのする借家で仏壇の前に座り、七回忌を迎えた夜、亡き夫に「お父さんなんとか言って下さいよ」と娘のことを愚痴るシーンだった。その演技を、演出の石井ふく子は舞台セットの向かいに座ってじっと見つめている。

 9月で99歳。ギネス世界記録にも認定された、世界最高齢の現役テレビプロデューサーだ。石井がドラマ「花嫁」の脚本を向田に依頼したのは半世紀前のこと。51歳で亡くなった向田とは「作品のことをよく話しあった。親子、きょうだい、家族を大事にしたドラマを作っていきたいね、と」。向田の妹、和子さんとは今も付き合いが続いている。

 1926年生まれ。母は花柳界の出身で、継父は劇団新派の俳優・伊志井寛(ただし)。実家には美空ひばりや高峰秀子、越路吹雪らが遊びにくることもあったという。日本舞踊が得意で俳優になったが、向いていないと感じて住宅メーカーに就職し、宣伝部で働いた。当時はラジオ全盛期。石井は、宣伝になるからと、会社にラジオ番組のスポンサーになることを提案。番組の原作や俳優のキャスティングも手がけるようになった。

 独自の芸能人脈があった石井は頭角を現していく。55年に開局したばかりのTBSから「東芝日曜劇場のプロデューサーになってほしい」とスカウトされると、向田や平岩弓枝、橋田寿賀子といった脚本家と組み、「時間ですよ」「肝っ玉かあさん」「渡る世間は鬼ばかり」など大ヒット番組を次々と送り出した。

 TBS局内には今も、石井のデスクがある。盟友の橋田が2021年4月に亡くなったとき、石井は長いキャリアで一度だけ引退を考えたという。「橋田さんとは夜10時に毎晩、電話で話していた。その時刻になると寂しくて……気力が出なくなった。でも、橋田さんと交わした『仕事は続けて』という約束を心の支えに、今も続けています」

 石井は今も都内のマンションに一人で暮らす。かつては同じマンションに住んでいた京マチ子、奈良岡朋子、若尾文子と毎年、正月におせち料理を食べたが、京と奈良岡は亡くなり、若尾も仕事から遠ざかっている。遺言は書き終え、終活も済ませた。あとはできる限り、現役を続けるつもりだ。

 「私の財産はみなさんとお仕事すること。身内もなく、天涯孤独だから他の財産はいらない」(森下香枝)

朝日新聞デジタル